「あー、今日も疲れた」
今日も一日部長に振り回されたおかげでくたくたに疲れた高瀬はさっさと着替えを済ませ校門へと向かう。
「なんか今日の部長は一段と凄かったな」
疲れとともにそんな言葉もでる。
「特に公演する劇があるわけじゃないのに、なんであんなにいきいきしてたんだ?」
(まあ、部長のことだからなんかの漫画に影響されたんだろうけど)
高瀬は気づいてなかったが今日は2月13日――――バレンタインの前日である。
藤宮 円も女の子であり、バレンタイン前日にウキウキしてたわけである。
「あ、高瀬ー」
歩く先の校門から自分を呼ぶ声が聞こえる。
(部長かな…)
「聞いてよ、高瀬。芹ちゃんたら酷いんだよ」
案の定部長だった。
「何言ってるんですか。部長が分かってないんですよ。チョコはですね……」
ただ、芹沢がいるのは意外だった。さらにいえばチョコの話をしてるのも意外だった。
「「高瀬(先輩)はどっち(ですか)?」」
「えっ、俺ですか。いやっ」
今更聞いてなかったとも言えない。
「生チョコです。生チョコ」
苦し紛れにそう言う。
それを聞いた部長がせかせかメモってる姿が印象に残った。




「ナイスだったわ。芹ちゃん」
「だから言ったんですよ。上手くいくって」
高瀬とは逆方面の帰り道、女子が二人話していた。もちろん円と芹沢だが。
「ふふ、これで高瀬の好きなチョコが分かったわね」
嬉しそうに円が言う。
つまりさっきの言い合いは高瀬の好きなチョコを知るための演技ったのである。
「それにしても部長が、まさか高瀬先輩にですか。いつもバカキザなんて言ってるのに」
うんうん、とうなずきながら満面の笑みを浮かべる芹沢。からかう気満々なのが一目でわかる。
「だから違うって言ってるでしょ」
顔を赤くしながら言う円。なんというかばればれだった。
「まあ、頑張ってください。部長」
そいうと芹沢は走っていった。
残された円は、
「だから、違うって言ってるでしょ」
大声で叫んで、
「うるせー」
怒られた。




学校に着くと男子はみな、期待と絶望をない交ぜにした表情をしていえた。悲壮感すら漂ってくる。
「なんなんだ」
「バレンタインだからだろ」
後ろからこの光景の理由を教えられる
「よっ、高瀬」
「ああ、北川」
そう言った北川は期待に胸を膨らます少年のような表情をしていた。
「そう、今日はバレンタイン。告白したくても告白できない、ちょっと素直じゃない女の子が素直になれる日なんだ」
「今日だっけか?」
なんとなく部長の顔が浮かんだ。
「そういえば、部長も昨日チョコの話をしてたよな。まさか……な」


まさかとは思いつつも期待してしまう。
(いや、まさかあの部長が。だいたい誰に?)
こうして高瀬は部活のある時間までずっと悩んでいた。
「いつもどうり…、だよなぁ」
気づかれないように部長を見てみるが、いつもどうりだった。
「違うわ、違うわよ。芹ちゃん。役になりきるのよ」
(いつもどうりだよなぁ)
「高瀬っ」
(もしかしてばれた)
「なんですか?部長?」
内心の動揺をださないように返事する。
「う、なんでもないわ」
安堵とともに少し落胆する。
(落胆?なんで?)
「円っ!」
部長が高見沢先輩にさらわれた。

「何やってるのよ。あのタイミングで渡しとけば良かったじゃない」
「だってー、だってー」
手足をバタつかせる円。姿と相俟って子供にしか見えない。
「だってじゃないわよ。いい、ああ見えて彼も結構モテるんだから」
「げっ、あのバカキザが!?みんなもの好きね」
「円もその中の一人でしょうが。はあ、こうなったら校門で渡すしかないんじゃない」
そう言うとハルカは行ってしまう。
「あ、ちょっとハルカ」
ハルカを追いかけて急いで戻ると、高瀬は宮本先生と話していた。
(やっぱ帰り道しかないわね)


「はぁ」
「どうした高瀬。ため息なんてお前らしくない」
「あ、宮本先生。宮本先生こそこっちにくるなんて珍しいですね。
「私は他の先生に頼まれた用事で来ただけだ。ほい」
宮本先生から用事を渡される。
「活動記録ですか。ありがとうございます」
「で、どうしたんだお前」
「別に大したことじゃないですよ」
「あ、もしかしてチョコが貰えなかったとか」
にひひひ、と笑いながら指摘する宮本先生。
「違いますよ」
当たらずしも遠からず、と心の中で付け足す。 「まあ、頑張れ若者よ」
「自分があげる人がいないからって」
「はうっ」
そんなこんなで部活も終わった。
「結局は思い過ごしだったわけで」
期待してたわけじゃないがなんとなく落ち込む高瀬。
「はぁ、帰るか」
「高瀬っ」
「昨日と同じ展開だな」
意識せず嬉しそうな声になっていることに高瀬は気づかない。
「遅いわよ。高瀬」
口ではそう言いながらも決して怒ってはいないのが分かる。
ハイッと箱に入った(多分)チョコを渡される。
「あ、勘違いしないよーに、いちおー世話になってるからあげるんだからね」
顔を赤くしながら言うその姿がかわいくて、
「わかりました、部長。そのかわりホワイトデー楽しみしといてください」
高瀬は微笑みながらいった。